令和7年6月定例会に提案された「京丹後市都市拠点公共施設建設に係る補正予算」の採決は9月定例会に延期された。この間、市議会として「市民の声を聴く会」を市内6か所で開催し、120名を超える参加者と対話を重ねた。白熱した議員間討議の結果、賛成9vs反対10 で予算案は否決された。
未来への投資か、財政の懸念か?市民を二分した都市拠点公共施設建設の深層をわかりやすくAIが音声で解説します。
議論の主な争点
議論は主に以下の3つの論点に分かれています。
1. 財政負担の健全性
賛成派の意見(Y議員)
市の財政は健全な範囲内であり、大型事業を盛り込んだ財政見通しでも、財政健全化基準からは大きな安全マージンがあるため、問題ないと考えています。今回の負担増は、将来の市民の資産となる施設への計画的な投資であり、赤字を埋めるための不健全な借金とは異なります。
反対派の意見(N議員)
財政健全化の指標の数字だけでは、財政の実態は簡単には見えないと指摘しています。実質公債比率や将来負担比率が基準値より低いからといって安心はできず、過去に多額の合併特例債を活用した他市の事例を挙げ、将来的な市民サービスの削減につながる危険性を示唆しています。

[図の解説]
左のグラフ「実質公債比率」:棒グラフは、京丹後市の実質公債比率14.3%、北見市の実質公債比率12.0%が、国の基準値(実質公債比率25%)よりはるかに低い安全な範囲にあることを示します。
右のグラフ「将来負担比率」:棒グラフは、京丹後市の将来負担比率157.6%、北見市の将来負担153.5%が、国の基準値(将来負担比率350%)よりはるかに低い安全な範囲にあることを示します。
いづれの自治体も安全とされる範囲であるものの、京丹後市よりも数値の低い北海道北見市は財政難に陥っているとの報道もあり、数字の絶対値だけでは判断できないという反対派の主張を視覚的に表現します。
2. 施設の整備手法
新規建設推進派の意見(S議員)
子育て関連の複合施設を既存施設で賄うことには限界があると考えています。老朽化対策や長寿命化のための改修を分散して行うことは、一時的な負担軽減にはなるものの、実質的な費用や施設としての機能が十分かどうかに疑問を呈しています。最優先で新規に建設すべきだと主張しています。
既存施設活用派の意見(谷津議員)
子育て支援施設の整備を否定するものではなく、その「形」が新規建設である必要があるのかを問いかけています。既存施設に併設することや、職員がどこでも業務を行える仕組みを活かし、市民が身近な場所で相談できるような方法も検討すべきだと述べています。
[図の解説]
左側の円は、「新規建設」のコンセプトを図示しています。周辺の地域から、子育て支援や図書館といった機能を「新しい都市拠点」に集約するイメージです。このアプローチには、「建設による整備費の増大」や「一極集中」、「周辺地域の活力低下」といった課題が伴いますが、「機能強化」や「効率化」、「利便性向上」といった効果が期待されます。
右側の円は、「既存施設活用」のコンセプトを図示しています。市内に点在する既存施設を活かし、「子育て相談」や「図書の巡回」といった行政機能を各施設に拡充します。これらの施設はDXネットワークで結ばれ、中心の「行政機能」と連携することで、「整備費用削減」や「既存施設の活用」、「周辺地域の活性化」、「早期実現」といった効果が期待されます。一方で、「老朽化の懸念」や「非効率化」といった課題も考慮する必要があります。
3. まちづくりの考え方(都市拠点 vs 地域拠点)
都市拠点中心派の意見(T議員)
国の方針である「立地適正化計画」に基づき、都市機能を中心(都市拠点)に集約し、地域と公共交通網で結ぶ「コンパクトシティ・プラス・ネットワーク」が持続可能なまちづくりの基本だと主張しています。中心核を整備しないことは、この国の方針に反し、今後のまちづくりに影響を及ぼすと懸念しています。
地域拠点優先派の意見(谷津議員)
「コンパクト・プラス・ネットワーク」の考え方自体は賛成しつつも、都市拠点と地域拠点のどちらを優先すべきかという考え方の違いだと述べています。合併当初から掲げてきた「均衡ある発展」の理念に基づき、周辺地域に住む市民の不便を解消するため、まずは地域拠点を整備する必要があると考えています。
まとめ
今回の議論は、単に一つの建物を建てるか否かだけでなく、財政のあり方、施設の整備手法、そして市の将来的なまちづくりという、3つの大きな論点が複雑に絡み合っていることがわかります。議員からは、対話を通じて市民の願いとまちづくり全体をつなげていくことの重要性についても言及されました。